
子供が孫を連れてやってきた。
イチゴ狩りに行くのだと言う。
老人はいやもおうもなく、イチゴ狩りメンバーに加えられている。
もう予約もしてあると言う。
老人が暇なのを子供も知っているのだ。
でも、老人はまんざらでもない。
願ってもない暇つぶしのチャンスだ。
それに家族と一緒だから、道を間違えたり、さまようこともあるまい。
イチゴ狩りは昔一回だけ行った覚えがあるが、ずいぶんと昔で内容は忘れた。
老人は忘れやすい。古い事は忘れ、新しい事は何もおぼえられない。

会場は道の駅
会場は最近できた道の駅にあると言う。
言い方を変えれば、イチゴ園に道の駅が附属しているということだろう。
言い方を変えようとするのは、老人の悪い癖だ。
日曜日なので、お客で大盛況だ。
前日は寒くて暴風雨だったのに、当日は快く晴れた。
だからみんな、はしゃいで『イチゴの踊り」を踊りまくっている。
これは今考えた嘘だ。
でも、もしかしたら、日本のどこかで、この踊りが流行っているのかもしれない。
見渡してみると、お客は、女子供と老人と亭主達だった。まあ、これも当たり前か。
あとはアベックと男女の混合グループだ。
アベックのことを、今はカップルとか言うらしいが、中身は何が違うのかと老人は思う。
男女の混合グループは、今は何と言うかは知らないが、昔はグループ交際の目的はただひとつとか言っていた。
さすがに、男だけのグループは見当たらなかった。
でも、そういうのもありだと、老人は思った。


イチゴの受付
いちご会場の受付は、立ったまま会場の入り口で行われる。
受付付近にはいろいろと張り紙がしてあって、イチゴの不法持ち帰りを硬く禁じている。
イチゴハウス内では、30分間いくら食っても構わないが、ポケットとか袋に隠して持ち出してはならない。
まあ、これは当然のことだろう。
すでに予約の段階で何時開始かは決まっている。その予約一覧表を持った兄ちゃんおじさんが、お客たちを確認する。
65歳以上は老人割引が効く。
そのために何か証明を見せる必要がある。
老人たちは、それぞれの証明を兄ちゃんに見せた。
兄ちゃんはコンデンスミルクが要るのかどうかと聞いた。
女子供が別料金でそれを買った。
各お客グループには、ハウスの半分が割り当てられる。
それぞれに番号が振ってある。
老人たちの番号は13番だった。
次の工程では、ホワイトボードに書かれた配置図をもとに、今度はネーチャンが場所の説明を行う。ネーチャンの日本語はよくわからなかったが、熱意だけはよく伝わった。
場所はすぐにわかったので、老人たち一家は13番に向かった。
すでに30分の秒読みは始まっている、とそのように
緊張しながら考えているのは老人だけのようだった。
みんなのんびりと歩いている。
他のグループもみんなのんびりと歩いている。

13番入口のビニールのシートをめくると、なかは広くて、ざっと三千畳はあるだらうか(嘘)。
太くて高さもあるイチゴの畝(うね)が、約6本。(写真参照)

(グループに割り当てられたスペースはかなり広い)
隣のグループとは、やはりビニールで仕切られていて、向こうには行けない。
老人一家五名は互いに競合しないようにそれぞれの畝に適当に散らばった。
この畝の間を飛び越えてはならないと張り紙があった。
一度手をつけたイチゴの実はちゃんと食べろと張り紙があった。
もっともな話しだと老人は思う。
イチゴの品種についての立て札があったが、老人は何もわからない。
でかくても甘いやつ、小さくても甘いやつ、赤く熟してなくて白くても、甘いやつ、赤く熟していていて、甘いやつ、いろいろなイチゴがあるのだった。
20分も必死にイチゴを食っていると老人は疲れた。
そして温室なので、とても暑い。
老人は額の汗を拭いながら涼しい通路に出た。
通路には、イチゴを食い飽きて、暑さにのぼせた同輩のおじさんたちが何人か出ていた。
そういうおじさんたちのために適当にベンチも置いてある。
子供と遊んでるおじさんもいる。
連れてきた子犬と遊んでいるおじさんもいる。

イチゴ園のまとめ
以上をまとめると以下のようになる。
(まとめると言うほどの話しではないかもしれないけど)
- 事前に予約する
- 老人割引を受けたいのなら、証明書を忘れずに
- 温室は暑いので、簡単に脱げる上着を着ていく
- 汗拭き、タオルを忘れずに
- ゴミのポイ捨てやめよう
- 食べ放題とは言っても、ゆとりを持って上品に振る舞おう
我ながらベタなまとめだと老人は思う。
でもしょうがない、それではまた。
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